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区分 輸入クラシック 中古
製作家/商品名 アントニオ・ラジャ・フェレール Antonio Raya Ferrer
モデル/品番 Model/No. No.174
001_007_arFerrer_02_214
弦長 Scale Length 650mm
国 Country スペイン Spain
製作年 Year 2014年
表板 Top 松 Solid Spruce
横裏板 Back & Sides インディアンローズウッド Solid Indian Rosewood
付属品 Option ハードケース(ヒスコックス 旧タイプ)
備考 Notes
ネック:セドロ
指 板:エボニー
塗 装:表板 セラック
   :横裏板 セラック
糸 巻:フステーロ
弦 高:1弦 2.8mm / 6弦 3.4mm

[製作家情報]
アントニオ・ラジャ・フェレール Antonio Raya Ferrer 1980年 スペイン、グラナダの生まれ。現在も同地に工房を構え製作を行っています。父は同地を代表する製作家の一人として日本でも人気のあったアントニオ・ラジャ・パルド(1950~2022)、そして母ピラール・フェレールは現在のグラナダ派形成の最重要人物ともいえるエドゥアルド・フェレール(1905~1988)の孫娘であり、彼は文字通り物心つく前からこの二人の工房で製作する姿を見ながら育ったといいます。14歳の頃から父の工房で働き始め、17歳の時には自身のラベルで製作を開始。父親そしてグラナダの伝統に最大限の敬意を払いながら、慎ましくその継承者としての任を自覚している誠実な彼は、やはり父親同様にどこか柔和で素朴な作風が魅力的なブランドとして出発し、現在はあくまでも彼自身の成熟ゆえの帰結として、音響的そして造作精度的に高度の洗練を成し遂げた俊秀としての位置を確立しています。

[楽器情報]
アントニオ・ラジャ・フェレール 2014年製 No.174 クラシックモデル Used。彼らしい、いかにも若々しい明るさと力強さ、そしてシャープな身振りの中にどこか柔和なニュアンスが同居した、愛すべき1本となっています。

ラジャ・フェレールのギターにおいて特筆されるのは撥弦から発音へのメカニズムの自然さで、弦の弾性を木がしっかりと受け止め(これは撥弦の際の反発感として体感できます)、それを音へと洗練させてゆくプロセスにおける適切さが常に保たれているのですが、ここに一切の無駄なアクションを敢えて加えない彼の技量と、製作家として中庸であることの美徳が通底しており、その抑制された円熟ともいうべきスタンスは充実したグラナダ派の中堅ブランドの中でも逆に際立っていると言えるでしょう。

音響バランスは重心が低すぎず、また高音側に寄せ過ぎずまさしく中庸なバランス感でこれが実に心地良く、そこに上記のようなシャープな身振りと発音の速い反応による自然なドライブ感が生まれ、音楽に瑞々しさを加えていきます。

形の整った音像は自然な艶を湛え、すべての音が有機的な繋がりを生み出してゆくので音楽はごく自然に流れてゆきます。タッチの変化による音色の変化はもちろん、同時に音の位相感さえも微妙に(やはり音楽的に)変化してゆくので、工夫によって様々なパースペクティブをを形成し曲に深みを与えることができます。全体は慎ましく明るい音でまとめられているので派手さはありませんが(といって地味というわけでもまったくないのですが)、その凛とした響きの中にいくつもの音楽的な相貌を内包している、まさしくクラシカルな表現にふさわしい一本となっています。

表面板力木配置は、現在の彼のモデルとは異なり、興味深いアシンメトリ配置が採用されています。サウンドホール上側に1本のハーモニックバーと、ネック脚近くに幅2cm 厚さ1mm未満の非常に薄い補強プレートが横幅いっぱいに貼られており、下側(ブリッジ側)も1本のハーモニックバーを設置。扇状力木は6本がセンターに配された1本を境にして高音側に3本、低音側に2本配置され、これらの下端をボトム部で受け止めるように逆ハの字型に配置された2本のクロージングバー、そして駒板位置には短辺が駒板のそれの半分ほどの薄い補強プレートが、一方は低音側横板に接し、もう一方は扇状力木の一番高音側の1本に接したところで止まっています。構造自体はオーソドックスな扇状力木配置と言えるものですが、力木は高音側に、駒板位置の補強プレートは低音側に寄せたこの組み合わせは、いかにもありそうですが実はなかなか珍しい。レゾナンスはG#~Aの間に設定されています。

全体はセラックによるオリジナル出荷時のままの塗装。表面板は指板両脇やサウンドホールの高音側などに弾きキズ等がやや多くあり、また駒板下には弦交換時のものと思われるキズが少々あります。指板と表面板の接合部分(指板両脇とも)に軽微な割れを補修した履歴があります。横裏板は衣服等による摩擦あとがわずかにあるのみできれいな状態を維持しています。ネックはほんのわずかに順反りですが標準設定の範囲内、フレットは適正値を維持しています。ネック形状は薄めのDシェイプでコンパクトなグリップ感、弦高値は2.8/3.4mm(1弦/6弦 12フレット)でサドル余剰は高音側は0mm、低音側は1.0mmほどあります。糸巻はスペインの高級ブランド Fustero の フレタモデルを装着しており、現状で機能的な問題はなく良好です。全体の重量は1.57㎏。


新入荷 定価(税込) : 時価 販売価格(税込) :  お問い合わせ下さい。

区分 輸入クラシック オールド
製作家/商品名 アルカンヘル・フェルナンデス Arcangel Fernandez
モデル/品番 Model/No.
001_020_arcangel_03_192
弦長 Scale Length 650mm
国 Country スペイン Spain
製作年 Year 1992年
表板 Top 松 Solid Spruce
横裏板 Back & Sides 中南米ローズウッド Solid South American Rosewood
付属品 Option ハードケース
備考 Notes
ネック:セドロ
指 板:エボニー
塗 装:表板 セラック
   :横裏板 セラック
糸 巻:フステーロ
弦 高:1弦 2.6mm / 6弦 3.4mm

〔製作家情報〕
1931年スペイン、マドリッド生まれ。1954年に当時サントス・エルナンデスの後継者とされていた名工マルセロ・バルベロ1世の知己を得て、その工房に足繁く通いギター製作を学ぶこととなります。バルベロ1世がその2年後に52歳の若さで他界したあと、そのわずか2年間に彼から学んだことを糧に工房を立ち上げ、後年には師の息子マルセロ・バルベロ・イーホがスタッフに加わり、共に製作を続けていました。造作、材の選定、そしてなによりも音色に対する一切の妥協を排した製作姿勢は彼の人柄もあいまって孤高の趣を呈し、彼の楽器はそのあまりの完成度の高さゆえに、演奏者に非常な技術の洗練を要求するものとなっております。それゆえに多くのギタリストを刺激し続けている稀有な楽器ですが、2011年に製作を引退。現在ではますます稀少となっている名ブランドの一つです。

〔楽器情報〕
1992年製作のクラシックモデルです。弦長650mmで設定されています。

音の立ち上がりは軽く華やかでありながら、響きは重厚という二面性が特徴です。ミュート操作への反応性が非常に高く、音色や和声のコントロールのしやすさが際立っています。音量は普通ながら、レスポンスはとても良好で音の伸びもとても良く、全体のバランスもとても良い設定です。絶妙な粘りと発音、単音の粒立ちと和音のバランス、多彩な表情を持ち、演奏者の技術に応える稀有な楽器です。

セラックニス仕上げで、糸巻きにはフステーロ製を装着。ネックは標準より厚めですが、演奏性は良好です。フレットの摩耗もほぼなく、弦高値は1弦2.6mm、6弦3.4mmで調整されており、弦の張りは柔らかく、タッチの許容範囲も広いため弾きやすい設定です。

製作から32年が経過した楽器です。年代から見て良好な状態で、表面板サウンドホール付近に弾き傷があり、ボディ全体に細かな傷が散見されますが、通常の使用によるもので大きく外観を損ねるものではありません。塗装は良好で、割れ等の修理履歴はありません。ハードケースが付属します。

新入荷 定価(税込) : 時価 販売価格(税込) :  お問い合わせ下さい。

区分 輸入クラシック オールド
製作家/商品名 マルセロ・バルベロ・イーホ Marcelo Barbero Hijo
モデル/品番 Model/No. パラ・カサ・アルカンヘル Para Casa Arcangel Fernande
001_021_barberohijo_03_178
弦長 Scale Length 656mm
国 Country スペイン Spain
製作年 Year 1978年
表板 Top 松 Solid Spruce
横裏板 Back & Sides インディアンローズウッド Solid Indian Rosewood
付属品 Option ハードケース
備考 Notes
ネック:セドロ
指 板:エボニー
塗 装:表板 セラック
   :横裏板 セラック
糸 巻:ロジャース
弦 高:1弦 2.7mm /6弦 3.7mm


〔製作家情報〕
マルセロ・バルベロ・イーホ Marcelo Barbero Hijo 1943年マドリッド生まれ。父は20世紀前半のスペインを代表する名工の一人マルセロ・バルベロ1世(1904~1956)。わずか13歳の時に父バルベロ一世が他界したあと、その弟子であったアルカンヘル・フェルナンデス(1931~)が1957年に自身の工房を開き、バルベロ・イーホは徒弟としてアルカンヘルの工房に入ることになります。アルカンヘルは最初彼をあえてホセ・ラミレス3世の工房に修行に出し、このスペイン最大のブランドで製作の基礎を学んだ彼は、1960年の17歳の年にはすでに最初のギターを製作するまでに技術を磨いていきます。その後アルカンヘル工房に戻り、師と共にまさに職人ならではの実直さと探求心で製作に打ち込みます。「アルカンヘル・フェルナンデス工房品」のラベルを貼って出荷されたそのギターは実質バルベロ・イーホ本人による完全手工品であり、師アルカンヘルに勝るとも劣らない非常なクオリティを有したものとしてコアなギターファンに愛されました。1990年代後半からは自身のオリジナルラベルでの製作も並行して行い、ますます洗練と充実の高まりを見せていた彼でしたが、2005年1月に早すぎる死を迎えてしまいます。渋くやや硬質な粘りを持ったその音色は師アルカンヘル、さらには父バルベロ1世にまでつながるスペインギター最良の伝統を感じさせ、特に晩年に近づくほどに評価の高まりを見せるその楽器は、まさにスペインギター随一の逸品としての評価を不動のものとしています。


〔楽器情報〕
マルセロ・バルベロ・イーホ 製作 Para Casa Arcangel Fernandez(アルカンヘル・フェルナンデス工房品)ラベルによる1978年製 Used クラシックモデルです。製作家 江崎秀行氏による全面セラックニスによる再塗装、カナダの高級糸巻ブランドRodgers のフステーロモデルへの換装、さらには内部構造におけるカスタマイズ(部品の付加)など、音響に関連する部分へのそれなりのアクションを経ているため、オリジナルとはまた異なるニュアンスを持つ楽器へとリモデルされた、興味深い一本となっています。

オリジナルの仕様からして若干ながら珍しいとも言えるのはその力木配置で、サウンドホール上下に各一本のハーモニックバーとサウンドホール周りの補強プレート(ちょうどロゼッタと同じ面積)、そして扇状力木は左右対称7本、ボトム部でこれらの下端を受け止めるように逆ハの字型に配置された2本のハーモニックバー、駒板位置には横幅を駒板よりも広くとった補強プレートという設計。アルカンヘル工房の場合、扇状力木は駒板の幅に収まるように表面板中央に寄り添うように5本(フラメンコ)または6本(クラシック、高音側に1本が加わる)が設置され、外側に行くほどに短くなり、さらにボトム部のクロージングバーは扇状力木の下端を受けとめる位置というよりは、扇状力木のいちばん外側に加えられたというように逆「ハ」の字の間が大きく空いた配置になっていることが特徴となっています。そのため7本という数の力木とオーソドックスなクロージングバーの配置関係は、もちろんアルカンヘル自身も含め採用されることはあったものの、やや珍しいと言える設計。レゾナンスはF# の少し上に設定されています。

上述の「部品の付加」は駒板位置の補強プレートの低音側上下に一枚ずつ、直径2~3cm×高さ3mmほどの木製の円形ブロックが貼り付けられていることで、音響特性の改良を意図しているものと思われます(同様の発想は桜井正毅のギターにも見られます)。

江崎氏によるセラック再塗装は氏自身のハイスペックモデルにも見られるのと同様に全くムラのない高度な仕上がりで、新作のような艶やかさを湛えています。

上記の仕様による効果からか、撥弦における強い粘りとどっしりとした重心感覚、ストイックで高密度な音像といったバルベロ・イーホ的なキャラクターは、素直で明朗な、つやつやと磨きをかけたようなフレッシュな音色へと変化しており、全体の音響設計もややフラットな、手元でのバランス感が際立ったものとなっています。

全体は上記セラック再塗装によりほぼ新品同様レベルのきれいな状態です(表面板の駒板下1弦位置には弦とび跡を補修したあとが見られますがさほどに目立ちません。ネック、フレットも良好です。ネック形状はほんのわずかに厚めのDシェイプ、弦高値は2.7/3.7mm(1弦/6弦 12フレット)でサドル余剰は0.5~1.0mm となっています。糸巻きは出荷時にはスペイン製のFustero が装着されていたと思われますが、現在はRodgersのFusteroデザインのものに換装されており、こちらも機能的に問題なく良好です。


新入荷 定価(税込) : 時価 販売価格(税込) :  お問い合わせ下さい。

区分 輸入クラシック オールド
製作家/商品名 モデスト・ボレゲーロ Modesto Borreguero
モデル/品番 Model/No.
001_Borreguero_3_130
弦長 Scale Length 648mm
国 Country スペイン Spain
製作年 Year 1930年
表板 Top 松 Solid Spruce
横裏板 Back & Sides シープレス Solid Cypress
付属品 Option ハードケース
備考 Notes
ネック:マホガニー
指 板:エボニー
塗 装:表板 セラック
   :横裏板 セラック
糸 巻:不明
弦 高:1弦 3.0mm /6弦 3.6mm

〔製作家情報〕
モデスト・ボレゲーロ・オルテガ(1893~1969)スペイン、マドリッド生まれ。12歳の時にマヌエル・ラミレスの工房に徒弟として入り、その後同工房のサントス・エルナンデスやドミンゴ・エステソに続く重要な職人として製作。1916年にマヌエルが亡くなった後もボレゲーロは1923年に工房を閉鎖するまで残って製作を続けました。翌1924年には独立し工房を開きますが、間借りした建物の劣悪な環境のため設備を整えるのに相当の苦労をし、その後も同じマドリッドで何度か工房を移して製作を続けていたもののスペイン市民戦争のさなかでその工房も失い、また妻が二人の子供を残して他界するという不幸と困難に見舞われます。さらに何度かの転居の後、1945年に工房を再開し、彼のギターは少しずつ評判を取り戻すようになりますが依然苦しい生活が続きます。そして1948年、当時家具の修復をしていたエルナンデス・イ・アグアド(マヌエル・エルナンデスとヴィクトリアーノ・アグアド)が自分たちの工房の一部を仕事場として提供してくれることになるのですが、アグアド達はこのときボレゲーロの仕事を間近に眺めギター製作に興味を持ち、これが機会となり彼らは本格的にこの道に入ることになります。ボレゲーロは1952年に転居するまでここで仕事を続け、その後は楽器店 Casa Garrido の専属としてギターを製作。Casa Garridoではのちにアグアドの後継的な系譜に繋がる重要な製作家ビセンテ・カマチョにギター製作を教えています。彼の弟子としてはほかにもフェリックス・マンサネーロ、息子のエンリケ・ボレゲーロらがおり、二人ともその後ホセ・ラミレスⅢ世の工房に入りスタンプを与えられて製作しています。病気のため1963年には製作から退き、1969年にマドリッドでその生涯を終えます。彼のギターは戦前のマドリッド派が持っていた、力強く温かみのある音色、良く歌う艶やかな響きを備えたロマンティックなギターで、サントス、エステソと比較して語られることが多い。また歴史的にマヌエル・ラミレスとエルナンデス・イ・アグアドを繋ぐ製作家としての意義は大きく、その評価は現在でも揺るぎのないものとなっています。


〔楽器情報〕
モデスト・ボレゲーロ製作、1930年製 Usedです。横裏板がシープレス仕様であることと内部構造の特徴から、フラメンコモデルとして作られたものと考えられます(現在はゴルペ板は剥がされており、両方の用途で使われています)。ラベルには「Antigua oficiel de Manuel Ramirez」の文言が印字されており、この時すでにボレゲーロは独立していましたが、敬愛する師の名前を継続して使用することで自身が正統なマヌエル・ラミレス工房の職人であったことを訴求していたことがうかがわれます。ラベルデザインもまたマヌエル・ラミレス的な意匠を受け継いでいるのですが、工房住所のところに貼り紙をして「Desengano.2」と訂正されており、ちょうどこの時期不安定な生活の中で転居を繰り返していた様子も読み取ることができます。実際二つの世界大戦、さらにはスペイン市民戦争による世情の煽りをまともに受けたこの製作家にとって、その中間の時期である1920年代から30年代半ばにかけては例えば兄弟子のサントス・エルナンデスのように充実した製作期となったはずであろうところ、やはり相当な苦労をしながらなんとか製作を続けていたようです。

本作はまさにそのような時期の一作で、興味深く、また魅力的な一本となっています。一見してサントス・エルナンデスの影響下にあることが分かる外観(ヘッドシェイプ、ロゼッタデザインなど)で、その影響は表面板の力木配置にも如実に見て取れます。

サウンドホール上下(ネック側とブリッジ側)に1本ずつのハーモニックバーを設置し、サウンドホールまわりにはロゼッタとほぼ同じ面積をカバーするように薄い補強板が貼られ値ています。扇状力木は左右対称5本の力木がほとんど平行に、駒板の横幅の範囲内に収まるように中央に寄り添って設置されており、ボトム部には2本のクロージングバーが逆ハの字型に配置されています。この2本のクロージングバーは通常なら扇状力木の下端を受け止めるような位置に設置されるのですが、ここでは5本の力木の最外側よりもさらに外側の横板に近接した位置に配置されています(ちょうど間隔をとても広くとった逆ハの字を形成しています)。この単純ながら特徴的な全体配置はまさしくサントス・エルナンデスからマルセロ・バルベロ、そしてアルカンヘル・フェルナンデスへと継承された設計と同じものとなっており、ボレゲーロがサントスの影響を受けていたことは容易に想像できるものの、数ある設計の中からこの配置を採用していたことには、何か感動に近いものさえ喚起させます。レゾナンスはF#の少し下に設定されています。

この殊勝な製作家によって、マヌエル・ラミレス工房の、そして戦前のスペインギターのエッセンスが実に慎ましくも円満に体現されており、大変に魅力的な一本となっています。重厚で引き締まった、十分に低い重心感覚を備えた低音から雄弁な中低音、そしてシャープできりっとした、良く歌う高音へと至る鉄壁のスペイン的音響設計。響箱全体が一つの有機体となって一つの声を発するようで、その一つ一つの音が楽音としての実在性があり、洗練され、乾き過ぎず、艶があり、凛として明るい。単音での雑味のなさも素晴らしいですが、和音やアルペジオ、ラスゲヤードにおけるバランスフルな響きと各音(各弦)の明確なアイデンティティはとても心地良く、また清冽です。またフラメンコならではの反応の速さとドライブ感も申し分ありません。

おそらくフラメンコモデルとしてタフな使用をそれなりに経てきたのでしょう、表面板(駒板脇と下、指板脇など)、横裏板(ネックヒール部分とボトム部エリアなど)それぞれに数か所ずつの割れ補修歴、セラックによる全体の再塗装歴があるほか、表面板は駒板の上下でやや凹凸型の歪みが見られます。キズに関しては過去に行われた再塗装の際のタッチアップ処理を経ていることから、現状ではさほどに多くはありません。表面板のサウンドホール周辺はやや多く見られるものの、その他は衣服による擦れやスクラッチ痕が数か所にあります。またヘッドの糸倉、6弦部分に割れ補修歴があります。ネックは真直ぐで、フレットも良好な状態を維持していますが、上述の表面板の経年の歪みによりネック自体はボディに対してやや角度がついてしまった形になっており、弦高値は3.0/3.6mm(1弦/6弦 12フレット)とフラメンコとしてはやや高めな設定で弦の張りも少し強めとなっています。サドル余剰は現状で0.5mm。ネックシェイプは薄めのDシェイプでコンパクトなグリップ感です。全体の重量は非常に軽く1.14kgとなっています。


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区分 フォークギター
製作家/商品名 ブライアン・コーエン Brian Cohen
モデル/品番 Model/No. 000-42 Eric Clapton model
001_cohenB_02_212
弦長 Scale Length 630mm
国 Country イギリス England
製作年 Year 2012年
表板 Top 松 Solid Spruce
横裏板 Back & Sides メイプル Solid Maple
付属品 Option ヒスコックケース黒
備考 Notes
ネック:マホガニー
指 板:エボニー
塗 装:表板 セラック
   :横裏板 セラック
糸 巻:スパーゼル
弦 高:1弦 2.0mm / 6弦 2.5mm

[製作家情報]
ブライアン・コーエン Brian Cohen 南アフリカ共和国出身、現在はイングランド、サリー州のギルフォードに工房を構える楽器製作家で、古楽器から現代までの弦楽器全般とクラシックギター、アコースティックギターを製作しています。南アフリカ時代の1972年から独学でギター製作と修理を始め、同地を演奏旅行で訪れたSergio と Eduardo の Abreu 兄弟(日本では通例「アブリュー」と記されていますが「アブレウ」のほうが正しいとされており、英語圏でも「アブレイユ」と発音されることがほとんど)が使用したデビッド・ホセ・ルビオ(1934~2000)のギター修理を手がけたことを機に、製作家として身を立てることを決意、1974年にルビオの工房があるイギリスへと渡ります。当時まだ未熟だった彼はルビオ工房の職人にはなれなかったものの、ルビオはこの若い製作家のためにアドバイスを与え、やがて一流の職人となった彼は自身の製作と平行してルビオ工房品の作業も行っています(特にルビオが亡くなるまでの10年間はほとんどの受注品を彼が組み立てていたとのこと)。

彼がイギリスに渡った1970年代はクラシック音楽界で古楽器ブームが始まっており、そうしたムーヴメントに対応するかのように弦楽器製作においてもピリオド楽器の需要が高まりを見せてゆきます。1976年にリュート奏者のアンソニー・ルーリーがロンドンに設立したその名もEarly Music Cetre の工房をリサーチや製作のためにシェアするという環境に恵まれ、ここで3年間、彼は数多くのルネッサンス時代からの撥弦楽器を直に研究、修復し、そして自身のモデル製作に活かしています。彼はまた弦楽器属の研究と製作にもただならぬ情熱を傾けており、特にチェロでは1986年にCrafts Council Awardを受賞、1990年にはManchester International Cello Festival で銀賞を獲得するなど高い評価を得ています。またクラシックギターにおいても1989年にパリ ギター製作コンクールで2位となり、しっかりと地歩を固めてゆきます。

1990年には名手ジュリアン・ブリームからヘルマン・ハウザー1世(1882~1952)1940年作セゴビアモデル(Rose Augustine から借りていたという伝説的な一本)のコピーモデル製作を依頼されます。楽器にも知悉したこの20世紀最大のギタリストから得たものはコーエンにとってあのルビオにもまして大きかったようで、その後の科学的な測定に基づく精密な設定、音響学的なアプローチからの木材の選定方法へと彼を導いてゆくことになります。ここで彼が行った研究とその結論としての製作方法は非常に興味深いものですが、詳しくは語られておらず、しかしいずれ書物としてまとめる意向とのこと。

クラシックギターのみならず、ピリオド楽器を含む弦楽器全般のおける研究と製作というアプローチはやはりルビオを思わせるところがあります。そしてルビオ同様に西洋音楽全体の脈絡の中でクラシックギターの位置を見据える製作態度が彼には通底しており、英国という風土的感性がそこに加わったような楽器はまさにクラシカルな落ち着きと力強さがあり、その美しい仕上げも相乗してイギリスの中でもトップクラスの人気ブランドとなっています。

現在彼のクラシックギターはトーレス/ハウザースタイルに準拠したいわゆるスペイン伝統工法によるモデルをメインに製作しています。

[楽器情報]
ブライアン・コーエン製作のアコースティックギター 2012年製Usedです。米国の有名なアコースティックブランド Martin の分けても人気の高い000-42 のエリック・クラプトンモデルを踏襲して製作された一本。

エリック・クラプトンが1992年に発表したライブアルバム「Unplugged」で使用していたアコースティックギターが1939年製のMartin 000-42 モデル。このアルバムの大ヒットを受けて1995年にクラプトン初のシグネイチャーモデルとして000-42 EC が461本限定で生産されることになります。本作はこの42ECモデルに準拠しており、厳密に言えばスペックは同一ではなく細かなサイズ設定などに相違があるほか、なんと言っても横裏板にフレイムメイプルを使用し全体もセラック塗装仕上げ、ロゼッタやヘッドデザインなども実際はコーエンのオリジナルとなっており、000-42EC のInspired モデルと呼ぶ方がふさわしいでしょう。表面板の内部構造はMartin のスタンダードXブレーシングシステム(スキャロップドではない)を踏襲しています。ちなみに同じ「Unplugged」でクラプトンはクラシックギターも演奏しており、これはスペインの製作家 Juan Alvarez 1977年作のもの。

音色もMartinの硬いきらびやかな響きではなくコーエン自身の、むしろクラシックギター的な感性で作り上げられており、セラックやメイプルの特性を十分に活かした柔らかみのある優しい響きと音色が特徴となっています。

本作はコーエン氏がある映画の撮影用として製作し、撮影終了後は自身がストックしていたものを前オーナーが直接購入したもので、ワンオーナー品となります。傷は軽微なもののみでほとんどなく、割れや改造など大きな修復歴もありません。セラックの塗装は一部表面的なムラが見られる箇所がありますがこれも外観を損ねるほどではなく、全体にとてもきれいな状態を維持しています。ネック形状はこれも厳密にはMartinの仕様とは異なりますが、ほぼスタンダードと言えるCシェイプ、トラスロッド内臓のネックとなっており、現状で最適な設定になっています。ヘッドストックはソリッドタイプですがやはりMartin のスクエアな形状そのものではなく角の取れた柔らかいデザインになっています。糸巻は米国製 Sperzel のものを装着しています。


新入荷 定価(税込) : 時価 販売価格(税込) :  お問い合わせ下さい。

区分 輸入クラシック オールド
製作家/商品名 ホセ・ラミレス 3世 Jose Ramirez III
モデル/品番 Model/No. IM スタンプ
001_joseramirez_03_164
弦長 Scale Length 664mm
国 Country スペイン Spain
製作年 Year 1964年
表板 Top 松 Solid Spruce
横裏板 Back & Sides 中南米ローズウッド Solid South American Rosewood
付属品 Option スーパーライト黒
備考 Notes
ネック:セドロ
指 板:エボニー
塗 装:表板 セラック
   :横裏板 セラック
糸 巻:フステーロ
弦 高:1弦 3.1mm / 6弦 4.8mm

[製作家情報]
ホセ・ラミレス Jose Ramirez スペイン、マドリッドのクラシックギターブランドで、ホセ・ラミレス1世(1858~1923)、2世(1885~1957)の時代から現在のホセ・ラミレス5世まで、1世紀以上に渡りスパニッシュギター製作史のなかで最も重要なブランドの一つとしてその名を刻み続けており、いまなおワールドワイドにマーケットを展開する工房です。

なかでもとりわけ評価が高く「Ramirez dynasty」 と言われるほどに豊饒の時代とされたホセ・ラミレス3世(1922~1995)の時期に製作されたギターは、革新的でありながら幅広いポピュラリティを獲得し、世界中のギタリストとギターファンとを魅了し続けました。1950年代末から1960年代、パウリーノ・ベルナベ、マリアーノ・テサーノスといった名職人が職工長として働き、高級手工品の品質を維持しながら大量生産を可能した独自の工房システムを確立します。そして1964年にこのブランドのフラッグシップモデルとして世に出した「1A」は、表面板にそれまでの松材に代わって杉材を使用、胴の厚みを大きくとり、横板は内側にシープレス材を貼り付けた二重構造、弦長は664mmで設定(通常は650mm)、さらに塗装には従来のセラック塗装からユリア樹脂のものに変更し耐久性を飛躍的に増すとともに、「ラミレストーン」と呼ばれる独特の甘く艶やかな音色を生み出し、真っ赤にカラーリングされた印象的な外観と相まってクラシックギター史上空前のポピュラリティを獲得することになります。

これらラミレス3世がクラシックギターに対して行った改革はマーケット戦略の面でも、また製作の面でも実に独創的でしかも時代の要請に十全に応じたもので、のちのギター製作全般に大きすぎるほどの影響を及ぼしたのと同時に、まさにクラシックギターのイメージを決定するほどに一世を風靡しました。

ラミレス3世の息子4世(1953~2000)は18歳の時に父ラミレス3世の工房にて徒弟として働くようになり、1977年には正式に職人として認められます。1988年には妹のアマリアと共にブランドの経営を任されるようになり、父の製作哲学を引き継ぎながら、より時代のニーズに則した販売戦略(エステューディオモデルの製作、標準的な650mmスケールの採用等々)を展開しさらにシェアを拡大してゆきますが、3世亡き後わずか5年後の2000年にこの世を去ります。

4世亡きあとアマリアは彼の意を継いでより柔軟な商品開発、生産ラインの監修、そして4世の子供たち、クリスティーナとホセ・エンリケの二人の姉弟の工房スタッフとしての教育に心血を注ぎます(二人は2006年から工房で働き始めています)。現在二人は正式にブランドを継承し、クリスティーナ(グラフィックデザイナー、音響技術者としての資格も有する)がマーケティングプロジェクト全般を、ホセ・エンリケが製作と工房運営を担当しています。

名手アンドレス・セゴビアの名演と共にその音色が記憶に残る3世と4世の時代につくられたモデルは現在も人気があり、特に製作を担当した職人のイニシャルが刻印されていた1960年代のものは往年のファンに愛奏されています。


〔楽器情報〕
ホセ・ラミレス 3世 IMスタンプ 1964年製 クラシックモデル、ラベルに記載はありませんが、このブランドのフラッグシップモデルとしてこの後定着することになる「1A」にあたる、ラミレス最上位機種になります。よく知られているようにラミレス3世の工房では当時製作を担当したマスタービルダーのイニシャルがボディ内部にスタンプされており、本作「IM」はイグナシオ・マンサーノ・ロサス Ignacio Manzano Rozas 製作であることを示しています。ロサスは1961年から1970年までラミレス工房で働き、その後はマヌエル・コントレラスの工房で職工長として1989年まで精力的に製作に従事したあと満を持して1990年に自身の工房を設立、2008年に製作を引退しますが、マドリッドらしい豪壮さと渋めの音色が大変に魅力的な楽器で人気を博し、現在でもファンの多いスペインブランドの一つとなっています。

1964年は「1A」の原型がほぼ完全に出来上がっていた年で、この直後に表板が杉仕様、塗装はセラックニスからユリア樹脂へと仕様を変更し、あのラミレススタイルが確立します。本作は表面板に松材を使用し(横板は内側に別の木を貼り付ける2重仕様がすでに実装されています)、仕上げもセラック塗装など、1A プレスタイルともいえる1本ですが完成度の高さはさすがで、当時の工房の充実度がこの一本からも見て取ることができます。

表面板の力木構造もここですでに1A モデルの定式が確立しています。サウンドホール上側(ネック側)に1本のハーモニックバー、下側には同じく一本の横方向のハーモニックバーとほぼその中央で斜めに交差する(低音側横板上部から高音側横板下部に向かって)もう一本のバーが設置されており、この3本のバーはそれぞれ低音側に高さ2mm 長さ5cmの開口部が設けられています。サウンドホールまわりにはロゼッタと同じ面積の補強板が貼られています。表面板下部は6本の扇状力木がセンターに配された一本を境として高音側に2本、低音側に3本配置されており、ボトム部でこれらの下端を受け止めるように2本のクロージングバーが逆はハの字型に設置され、駒板位置には駒板横幅よりも若干広い補強板が貼られているという全体の設計、レゾナンスはGの少し上に設定されています(のちのラミレスではほぼAに近い高めの設定になっています)。

ラミレストーンと呼ばれることになる杉仕様の1Aと比較すると、その音響バランスにまずは違いがあります。本器では重心がしっかりと低く、重厚な低音がシャープで繊細でさえある高音を支えるようないわば「オーソドックス」なスペイン的バランスで音響が形成されています。撥弦にもまだ「爪弾き」の感触があり、表面板の弾性と反発感によって音が跳ね返ってくる感覚があります。しかしながら同時に、撥弦の瞬間のアタック感がそのままパーカッシブに箱を響かせ、圧倒的な放射力で音を発してくるあのラミレス特有の感触もまたここに萌芽を感じ取ることができ、まさしく本器においてラミレスというブランドの「現在と過去」の最高度の融合を体感することができます。特にラミレスファンには忘れがたい、独特のコクのある高音についてもやはり同時期のスペインギターの中でも抜きんでたものがあります。

全体はセラック塗装仕上げ。割れなどの大きな修理履歴はありません。表面板の指板脇からサウンドホール周辺や駒板下部分などに浅く軽微なキズがありますがあまり目立ちません。横裏板は衣服等による擦れが少々、ネック裏も少々の爪キズのみとなっており、全体的に経年考慮するときれいな状態と言えます。ネックも良好な状態を維持しており、フレットは1~4フレットでやや摩耗見られますが演奏性への影響はなく継続してお使いいただけます。ネックはDシェイプのフラットでスクエアな形状をしており、指板はクラシックとしてはやや強めのラウンド加工となっており、さらに6弦側から1弦側に向けて強く傾斜させて高音弦の弦高を低く設定しており、左手の演奏性を追及しています。この仕様は60年代後半からはほぼデフォルトの設定になりますが、この64年の時点ではむしろ珍しい設定と言えるでしょう。ただしネックのボディに対する差し込み角は先述の60年代後半のラミレスよりもぐっと浅くなっており、左手のストレスはこの点でも軽減されています。弦高値は3.1/4.8mm (1弦/6弦 12フレット)でサドル余剰は2.0~2.5mmあります。糸巻はFustero 製を装着しており、現状で機能的に良好です。ボディ重量は1.51㎏。


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区分 輸入クラシック オールド
製作家/商品名 デヴィッド・ホセ・ルビオ David Jose Rubio
モデル/品番 Model/No.
001_jrubio_1_03_171
弦長 Scale Length 650mm
国 Country イギリス England
製作年 Year 1971年
表板 Top 松 Solid Spruce
横裏板 Back & Sides 中南米ローズウッド Solid South American Rosewood
付属品 Option ハードケース
備考 Notes
ネック:マホガニー
指 板:エボニー
塗 装:表板 セラック
   :横裏板 ラッカー
糸 巻:フステーロ
弦 高:1弦 2.7mm / 6弦 4.1mm

[製作家情報]
David Jose Rubio (1934~2000)本名David Joseph Spink。20世紀以降のイギリスにおけるクラシックギター製作の嚆矢となり、その後の文化的素地を形成し、現在もフォロワーの絶えることない多大な影響力を有した天才的な製作家です。またその才能はクラシックギター製作のみならず、1970年代以降はハープシコードやバロックヴァイオリン等の製作においても発揮され、当時ちょうど再発見のブームにあった古楽演奏のフィールドに大きく貢献しています(彼の製作したハープシコードは古楽演奏の大家グスタフ・レオンハルトがバッハ演奏のレコーディングで使用しています)。彼の工房ではポール・フィッシャー、E.B.ジョーンズ、カズオ・サトーら多くの優秀な弟子をスタッフとして登用し、それぞれが独立後もすぐれて創造的なギターを世に出していることからも、メンターとしても非常にすぐれ、かつインスピレーションを喚起する存在であったことがうかがえます。

ルビオ自身の経歴はとてもユニークかつ「アーティストらしい自由な」もので、大変に濃密。青年期から医学を志し専門学校に通っていましたが、色盲のためこれを断念。それから一気にシフトチェンジし、スペインに渡りジプシーコミュニティとの交流のなかでフラメンコギターを演奏するようになります(この時彼はセビージャ出身のフラメンコギタリスト、Pepe Martinez に演奏の手ほどきをうけています)。スペイン各地を廻り、それぞれの地でいくつものギター工房を訪れた彼ですが、特にマドリッドでは当時はまだEsteso を名乗っていたコンデ・エルマノス工房に「ギタリストとして無駄話をしに」行き、ファウスティーノ・コンデが製作する様子を見つめながら(決して製作法について教えを受けることなどはなく)2年間を過ごしたそう。ルビオのギター作りはその根底にサントス・エルナンデスやドミンゴ・エステソの影響が如実に表れており、これはこの時の経験によるものと思われます。その後ギタリストとしての確かな腕前を認められ、彼はあるフラメンコ楽団の演奏旅行に同行し、1961年にアメリカ、ニューヨークの地を訪れます。この都市の魅力に刺激されたのか、彼はここでまたしても軽快に方向転換し、ギタリストの職を辞して同地に留まることを決意。2年間夜学に通いながら家具製作工房で働き、1963年グリニッチヴィレッジに自身のギター工房を設立します。全く驚くべきことに彼はスペインのギター工房で見て記憶した技術だけで、造作的にも芸術的にも極めて完成度の高い楽器を最初から作っています。そして素晴らしい偶然がここで起こることになるのですが、工房を開いて数か月が経った頃、ちょうどニューヨークを訪れていた名手ジュリアン・ブリームがコンサートで使用していたロベール・ブーシェのギターの修理依頼にルビオを訪れます。その修理内容に満足するとともにルビオの才能を見抜いた彼はブーシェコピーの製作を提案すると、ルビオはこの歴史的名品の構造的特徴を瞬時に理解しさらにそれを見事に応用したギターを製作。ブリームは1966年製と1968年製の2本のルビオ製作のギターを愛用することになり、彼の名盤の一つ「20th Century Guitar」などで使用しています。

1967年にイギリスに戻り、ブリームの勧めでSemleyに彼の所有する敷地内の邸宅を工房として製作を継続。ブリームの名演によって一気に世界的な名声と需要が高まり、1969年にはOxford 近くのDuns Tew に工房を移転します。ここでポール・フィッシャーが工房スタッフとして加わるとともに、ルビオの製作する楽器ジャンルも一気に多様化してゆきます。特に古楽器のジャンルでの展開は目覚ましく、ハープシコード、リュート、ビウエラ、テオルボ、バロックギター、ヴィオラ・ダ・ガンバ、バロック・ヴァイオリン、バロック・チェロ等ほぼ主要弦楽器を網羅しており、当時の世界的な古楽ブームとあいまって飛躍的に需要を伸ばします。1980年代にはさらにCambridge に工房を移転し、ピリオド楽器だけでなく現代の工法による弦楽器にもラインナップを拡げてゆきます。このような製作事情から1970年代以降はルビオ自身によるクラシックギターの本数はかなり少なくなり、出荷されるルビオラベルの大半がフィッシャーらの職人によるものになっています。このことからルビオ本人作のギターには特別な価値がつくようになり、その判定の可否もしばしばギターマーケットでは話題になりますが、本人直筆のサインの有無(ボディ内部、ラベル等に書かれたもの)を判断基準とするのはいくつかの事例から考慮しても早計に過ぎると言わざるを得ないでしょう。

ルビオ本人によるギターは、その細部に至るまでの精緻な造作と良材の選択、威容と気品を備えた外観とデザインは彼の出自であるスペインの伝統の深みを十分に感じさせながら、同時に現代的でとてもスタイリッシュなもの。そしてやはり彼の特徴はその音色と響きにあります。異様な密度をもつ単音とそのサスティーン、深みと艶、アイデンティティをしっかりと持った表情の繊細さと豊かさ、全体の透徹としたバランスと迫力など、すべてがクラシカルな表現に相応しく、比類のない素晴らしさ。初期のニューヨーク時代からイギリス時代後期に至るまで作風を少しずつ変えていっており、特にニューヨークからSemley時代のものが人気が高くなっていますが、この時期の繊細な力強さとはまた趣を異にする1970年以降のものは、そのどっしりとした悠揚たる響きゆえに他にはない魅力をもっています。


[楽器情報]
デビッド・ホセ・ルビオ 製作 1971年製 Usedです。ラベルはかなり傷んでおり変色していますがルビオ本人のサインと年式がかろうじて確認できます。また表面板内部の高音側にも年式と本人サインがあります。表面板はセラック塗装で、全体に弾きキズ、スクラッチあと、打痕等大小長短のものが経年相応にあり、また演奏時に右ひじの当たる部分は塗装の摩耗と変色が生じています。横裏板は過去にラッカーによる再塗装が施されており、演奏時の衣服による細かな摩擦や、裏板の中央部分などに細かな打痕が集中している箇所などありますが、こちらも経年相応の状態と言えます。ネック裏もキズはほとんどありません。その他全体にしっかりと弾き込まれてきたであろう使用感はあるものの、割れや改造などの大きな修理履歴はなく、ネック・フレット等演奏性に関わる部分もまたとても良好な状態を維持しています。

ルビオはそのキャリア初期となる1960年代後半のニューヨーク時代からイギリスに帰国してのちの1970年代にかけての短い期間でも実はかなり大きな作風の変容を見せていくのですが、1971年の本器においてはその過度期ともとれる特性が見て取れます。ジュリアン・ブリームが適切にその響きを「銀鍾のような」と表現したルビオのニューヨーク時代の最良のものは、その言葉の通り濃密さと拡がりと輝き(しかしどこか翳も含んだ)とによって特徴づけられる、ほとんどギターならざる美しさを有した響きの楽器でしたが、イギリス時代に入ると響き全体が太くなり、弦楽器的な木質の味わいが濃厚なギターへと変わっていきます。

本器はその「鐘のような」響きに木質特有の粘りやコクが加わり、音像もほのかにそうした触感を帯びてきているだけでなく、全体の音響設計も重心の低い太い低音から凛とした高音へと至るスペイン的バランスが構築されているなど、ブランドヒストリー的には次のフェーズへ移行してゆく、その萌芽をここに聴くこともできます。ただし本器を単に「過度期」という未完のニュアンスで語ってしまうのは正しくなく、ここにもルビオだけがほとんど天才的に持っていた感性がしっかりと刻印されており、非常な魅力を備えた一本となっています。

ルビオはもともとフラメンコギタリストという出自にも関わらず楽器製作における彼のアプローチはすぐれて汎ヨーロッパ的で、表現楽器としてクラシカルな深い情感を湛えたものとなっています。あくまでも抑制されながら、楽音のニュアンスをたっぷり含んだロマンティックな響きがなんとも素晴らしい。それは奏者を楽曲イメージの透明な見通しの中に自然に引き込んでゆき、音楽と無媒介に触れてあってしまう、時として余りにも生々しい瞬間さえも生み出すようなところがあります。

ただし本器があくまで優れた一本であることを前提として、横裏板が出荷時の仕様とは異なる塗装(ラッカー)でリフィニッシュされていることにより、音質が本来のものより少なからず変質を被っているであろうことは想像され、この点は付言しておく必要があるでしょう。

表面板力木配置は、サウンドホール上側(ネック側)に2本のハ-モニックバー。下側(ブリッジ側)にも1本のハーモニックバーを設置していますが低音側には4~5センチほどの幅で高さ数ミリの開口部が設けられています。扇状力木は左右対称7本が設置され、これらの下端をボトム部で受け止めるようにV字型に配置された2本のクロージングバー、そして上部を波型に加工したバーがブリッジプレート(サドル)と同じ線上に高音側だけに設置されており、7本の扇状力木のうち一番高音側の2本のみがこのバーを貫通しています。このバーと扇状力木との構造的な関係はロベール・ブーシェのいわゆるトランスヴァースバー(ブーシェのこれは表面板横幅ほぼいっぱいにわたって設置され、扇状力木すべてがこのバーを貫通する形になっている)に影響を受けながら、それを高音側だけに、しかも上部を波型に加工して設置するというクリエイティブな採用を行っています。さらにはこのバーはここでは力木と接触しておらず、開口部をぎりぎり通り抜ける形になっており、この点もブーシェ的設計と異なります。また7本の扇状力木は厳密には左右対称ではなく、一番低音側の一本はサウンドホール下側バーに設けられた開口部をくぐり抜けてホールの周りに貼られていり補強板の縁にまで延伸しており、またこの力木を最長として、高音側に行くに従って力木の長さが少しずつ短くなっており、一番高音側の1本は低音側のものの3/4ほどの長さになっています。レゾナンスはF#~Gの間に設定されています。

ネックはやや太めな感触ながらもDシェイプの薄く角の取れたラウンド感のある形状ですのでグリップ感は自然な感触です。弦高値は2.7/4.1mm(1弦/6弦 12フレット)でサドル余剰は1.0~2.0mmとなっています。糸巻はスペインのブランド Fustero のフレタタイプに交換されており、現状で機能的に良好です。



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区分 輸入クラシック オールド
製作家/商品名 マヌエル・ベラスケス Manuel Velazquez
モデル/品番 Model/No.
001_velazquezM_03_166
弦長 Scale Length 650mm
国 Country プエルトリコ Puerto Rico
製作年 Year 1966年
表板 Top 松 Solid Spruce
横裏板 Back & Sides 中南米ローズウッド Solid South American Rosewood
付属品 Option BAM ハードケース
備考 Notes
ネック:マホガニー
指 板:エボニー
塗 装:表板 セラック
   :横裏板 ラッカー
糸 巻:ランドスドルファー
弦 高:1弦 2.8mm / 6弦 4.0mm

[製作家情報]
マヌエル・ベラスケス Manuel Velazquez(1917~2014)。
1917年プエルトリコ生まれ。母方の祖父母はスペイン人で、名工サントス・エルナンデスの縁戚にあたります。農業に従事する家系に生まれながらも彼は家具職人として修業を始め、同時にギターも製作するようになります。16歳で最初のギターを製作し、その頃に製作したギターの完成度の高さに感銘を受けた地元のある音楽家からニューヨーク行きを勧められ、1941年移住。第二次大戦の時期には造船所で木工に携わります。地道に製作を続けていた彼のギターは1940年代後半から地元の名演奏家たちに愛用されるようになり、その後はアンドレス・セゴビアが彼のギターを称賛するなど、瞬く間に名声を獲得してゆきます。1962年にプエルトリコに戻りそこで工房を設立、この時期は政府からの援助も受けてかなり広範で多産な時期を迎えます。1982年には再びアメリカに戻りヴァージニア州、テキサス州などで9年間過ごした後、フロリダに移り製作を続けます。この頃から息子のアルフレッドも製作に参加するようになり、2014年にマヌエルが亡くなった後は彼が工房を引き継いでいます。

もともとマヌエルの製作美学の根底にはトーレス、ハウザー、サントスらのトラディショナルなものへの憧憬があり、特にハウザーの影響が濃くあらわれた1950年代から60年代のものは高い評価を得ています。1970年代から1980年代までの楽器はユーザーの需要もありボディが大型化し、ちょうど人気の絶頂にあったラミレス的な要素を感じさせる力強く豊かな音量を備えたギターになっています。その後再びハウザースタイルを基調とした伝統的スタイルへと回帰したあと、1990年代後半からスペインのマドリッドスタイルを思わせる設計に塗装もラッカーからオイルフィニッシュへと変わり、音色も木質の素朴さと柔らかなものになっていきます。2014年にその生涯を閉じるまでアメリカ最大の巨匠と崇敬され、現在も特にハウザー的音響を指向していた時期の作は評価が揺るぐことがなく、ヴィンテージマーケットでの人気アイテムとなっています。

[楽器情報]
マヌエル・ベラスケス 1966年製 Usedです。ラベルはNew York ではなくPuerto Rico となっており、1962年に彼の故郷である地に戻って精力的な製作活動を行っていた時期のもの。彼の初期の代名詞となるハウザースタイルのギターで、力木構造や表面板の型、そして音響特性に至るまでがこのドイツの名品を思わせる、しかしながら決してただのイミテーションではない深い芸術性を(つまり音楽的な充実を感じさせる)有したベラスケスならではの完成度の高い響きを聴くことができます。

表面板力木配置は、サウンドホール上側(ネック側)に2本、下側(ブリッジ側)に1本のハーモニックバー、ホール高低音側には各一枚の角型の補強プレート、補強プレートはさらにホールとネック脚の間にも一枚が貼られています.。扇状力木は左右対称7本を設置、そしてこれらの下端をボトム部で受け止めるようにV字型に配置された2本のクロージングバーという全体の設計。これは厳密にはヘルマン・ハウザーのセゴビアモデルとは若干異なり、特に駒板の位置にほぼ同じ面積の補強プレートが貼られておらず、そのためむしろ力木配置的にはトーレスに近いものとなっています。レゾナンスはF#の上に設定されています。

しかしながらなぜベラスケスがハウザーを指向したのかを改めて考えるとき、まず彼があのサントス・エルナンデスの血縁であるという特別な因縁ともいうべきものに思い当たります。もはや伝説化し誰もが知るところとなったセゴビアという「仲介者」を通じてハウザー1世がサントス・エルナンデスのギターを知り、これを基に研究を重ねあのセゴビアモデルを完成させるに至ったわけですが、当のサントスをはじめおそらく当時から現在に至るまでハウザーはスペインの製作家たちにほぼ黙殺され続けています(そのただ一人の例外があのホセ・ルイス・ロマニリョスであることは併せて認識しておくべきでしょう)。ベラスケスはドイツがスペインから汲み取った富を再びスペインの側に引き寄せるわけですが、それは必然的にスペインから遠く離れたアメリカにおいてであり、自己を他者として見つめることのできる環境だからということは強調すべき点だと言えます。その彼が上述のように敢えてトーレス的構造においてハウザー的音響を達成しえたということは何か感動すら呼びおこすものがあるのですが、そこにはロマニリョスのモダニスト的アプローチというよりもむしろ、彼自身の純粋な嗜好に基づく自然な没入が感じられます。

本器1966年製にはいかにもこの時期のベラスケスらしい、統一的な位相感のなか、全体が一つの線を形成するかのような音響バランス、和音のまとまりと構成音の明確な表出、鋭い弾性感をともなった発音と洗練された音像など、ハウザーによってスペインギターが一気に汎ヨーロッパ的な相貌を帯びるに至った後をしっかりと受け継いでいる、まさしくクラシカルな一本となっています。全体的にシャープな響きで、例えばこのあとにベラスケスが指向することになるスペイン的な太い音に比較すると細い音ということになるのですが、高音などはそれでも強さと密度があり、低音もしっかりした重心感と、シャープですが重厚感があります。そして表情はとても豊かで、よく震え深く歌う、ベラスケスならではの抒情があります。

1960年代のベラスケスのエッセンスを感じることのできる一本であることをあくまで前提にして言えば、本器は横裏板のラッカーを再塗装しており、そのためか全体的にやや「フレッシュ」な響きになってしまっている点は付記しておくべきでしょう。ハウザー的な透徹さに滋味をほんのりとまぶしたようなあのベラスケス特有の感触が、全体にきれいに磨かれたような艶を帯びています。

外観も特筆すべきもので、表面板のベアクロウが印象的な松材と横裏板の見事な杢目のブラジリアン・ローズウッドとの対称が独特の迫力を生んでいます。横裏板は先述のとおりラッカ再塗装が施されていますが、表面板はおそらくオリジナル。割れなどの修理履歴はありません。全体に弾きキズ、スクラッチ跡、打痕等の大小長短のものがあり、特にサウンドホール付近などはキズが集中しています。横裏板は再塗装後は丁寧に扱われておりきれいな状態、ネック裏は経年相応の爪キズありますが細かく浅いものなので演奏中に気になるレベルのものではありません。ネック、フレットも適正値を維持しています。ネックは薄いDシェイプで角の取れた形状(ちなみにネックとヘッド部とはVジョイントではありません)。弦高値は2.8/4.0mm(1弦/6弦 12フレット)でサドル余剰は1.0~1.5mmとなっています。糸巻はLandstorfer 製が装着されており、現在も機能的に良好です。


商談中 定価(税込) : 時価 販売価格(税込) :  お問い合わせ下さい。

区分 輸入クラシック オールド
製作家/商品名 ビウダ・デ・マルセロ・バルベロ 1世 Viuda de Marcelo Barbero
モデル/品番 Model/No.
001_VMBarbero_03_156
弦長 Scale Length 650mm
国 Country スペイン Spain
製作年 Year 1956年
表板 Top 松 Solid Spruce
横裏板 Back & Sides 中南米ローズウッド Solid South American Rosewood
付属品 Option 軽量ケース
備考 Notes
ネック:マホガニー
指 板:エボニー
塗 装:表板 セラック
   :横裏板 セラック
糸 巻:ゴトー
弦 高:1弦 2.6mm /6弦 3.6mm

〔製作家情報〕
ビウダ・デ・マルセロ・バルベロ Viuda de Marcelo Barbero(Arcangel Fernandez) 。
20世紀スペインを代表する名工の一人 マルセロ・バルベロ1世(1904~1956)がその早すぎる死を迎えた時、残された未完の作を当時バルベロの弟子であったアルカンヘル・フェルナンデス(1932~)が製作を引き継ぎ、完成させました。バルベロが製作途中であったものから、受注して未着手であったものまで含め合計8本のこれらのギターは「マルセロ・バルベロの未亡人」とブランド名がクレジットされていますが、遺作楽器を「Viuda de ~」(「ビウダ」は「寡婦」の意)の表記とすることは当時のスペインでは慣習的に行われており、実質的にはこれら8本のすべてアルカンヘルが担当しています。

1904年 マドリッド生まれのマルセロ・バルベロ1世は若かりし時、あのレアル・マドリッドに在籍するサッカー選手であり、さらにプロボクサーでさえあった人物で(あのいかにも重心の低い、頑丈そうな体躯を見るとそれも納得できます)、ギター製作キャリアは1920年代後半から、同地マドリッドにあるホセ・ラミレス2世の工房で働き始めることから始まります。ここでマスタービルダーとしての腕を振るったであろうことは容易に想像できるのですが、有名ブランドの一職人であった彼が、その類まれな音への感性とそれを具現化する術を発見することになるはなんと言ってもサントス・エルナンデス(1874~1943)との出会いと言えるでしょう。しかしバルベロはサントスとは生前に製作を共にすることはついになく(直接の教えは受けることなく)1943年にサントスはこの世を去ってしまいます。この時、サントス夫人であったマティルデの要望でバルベロは未完のままとなっていたギターの製作を引き継ぐことになり、工房で実際に使われていた工具や治具、テンプレートを使用し、さらには夫の製作法を熟知していたマティルデからの助言を得てこれらのギターを完成させます(ラベルは ”Viuda de Santos Hernandez”となっています)。サントスの製作法をリアルに追体験するようなこの過程を経てのち、彼は満を持して独立して自身のブランドを設立することになります。ここでやはり顕著なのはサントスからの影響を受けた設計と音響設計で、それは1940年代後半から1956年の死に至るまでの短期間に、バルベロ自身の製作哲学の醸成とともに異様なまでの洗練が為され、マドリッド派の到達点ともいえる至高の名品が生み出されてゆくことになります。

マルセロ・バルベロというおおらかな芸術的製作家と、全集中型の天才アルチザンであるアルカンヘル・フェルナンデス(1932~)が邂逅するという、20世紀半ばのスペインでしか起こりえなかったであろう、たった一人の人間どうしによって為されてしまった偉大な製作史の繋がりにはいまさらながらに驚かされるものがあります。家具職人であり、フラメンコギタリストであり、映画俳優でさえあったアルカンヘルをバルベロは迎え入れ、まさに自身がサントスに対してそうであったようにアルカンヘルもまた師の製作法やそのギターが奏でる音に感銘し、魅入られ、自身も楽器製作を行うことになります、これが1954年のこと、バルベロの死の二年前です。

「突然逝ってしまったんだ」とのちにアルカンヘルが述懐するようにあまりにも急なバルベロの死によって、わずか2年の修業期間だけで取り残されるようであったアルカンヘルはしかしここでその力量を発揮します。本人作と見まごうばかりの完成度で、上述の未完となっていた8本を一気に仕上げたあと、同じマドリッドのヘスス・イ・マリア通りに自身の工房を設立し、ブランドをスタートさせます。ここにやがて師バルベロの息子であるマルセロ・バルベロ・イーホ(1948~2006)が加わり、マヌエル・ラミレスの伝統を正統的に継承する唯一の工房として静かに屹立することになります。

〔楽器情報〕
ビウダ・デ・マルセロ・バルベロ 1956年製 クラシックモデルです。ラベルには(Arcangel Fernandez)とプリントされており、マルセロ・バルベロ1世の未完の楽器を弟子であるアルカンヘル・フェルナンデスが仕上げた1本。「ビウダ・デ ~」のラベルが付された同様のモデルは全部で8本あり、そのうち5本はフラメンコ、3本がクラシックとなります。本作はその3本のクラシックモデルのうちの一本、アルカンヘル本人によるとバルベロが急逝した直後に製作したもので、すべてのパーツはバルベロが実際に残していたものを使用しているとのこと。いかにもマルセロが好みそうな(審美的というよりもトーンウッドとしての性質的に)材によって作られており、もちろんボディ形状、ロゼッタやヘッドデザインそして内部構造に至るまでがマルセロ・バルベロのオリジナルスタイルで見事に仕上げられています。

同時にここにはアルカンヘルのスタイルの原型となるものもはっきりと刻印されており、まさにこの一本に、師弟であり、偉大な製作家でもある二人の貴重な共同作業、さらには製作史における20世紀の分節点としての、異様に濃密な音響を聴くことができます。

表面板力木配置について、サウンドホール上下(ネック側とブリッジ側)に一本ずつのハーモニックバー、サウンドホール周りはロゼッタとほぼ同じ面積を覆うように薄い補強板、扇状力木は左右対称5本が上端はロゼッタの直径の範囲に、下端は駒板横幅の範囲にほぼ収まるように表面板の中央に互いに寄り添って設置されています。ボトム部には2本のクロージングバーが逆ハの字型になるような位置関係で設置されているのですが、お互いが両側横板に近接するほどに離れて(5本扇状力木のさらに外側に位置するようにして)います。駒板位置には駒板とほぼ同じ面積の補強板が、やや厚めの加工で貼られているという全体の配置。レゾナンスはF#の少し下に設定されています。

このシンプルですが特徴的な力木設計は歴史をさかのぼればトーレス以前の、例えばホセ・ペルナス(Jose Pernas)などのギターにまでさかのぼることも可能なのですが、これを音響の全き必然性において(つまり原理そのものとして)最初に完成させたのはサントス・エルナンデスと言えるでしょう。

マルセロはこの設計が必然的に生み出す音響の錬成を更に推し進めてゆきます。撥弦時に駒に集中するエネルギーを木質(硬いスプルース表面板)と構造体(強固な力木構造)によって瞬間的に密度を圧縮し、そうすることで力を増幅し箱を一体に響かせるのですが、ここでまさにバルベロだけがそれを可能にしたとしか思えないような、いささかも柔軟さを損なわない非常な硬質さという、独自の発音特性が生まれます。

アルカンヘルがこの特性を意識して製作していたことは間違いなく、本器においてもその方向性をしっかりと踏襲した音響で見事に着地しています。ただしここにはのちのアルカンヘルに顕著なストイックな厳格さ(強い反発感、粘りを伴った発音)とまではいかず、おそらくは経年の弾き込みにもよるのでしょう、タッチにヴィヴィッドに反応する高い音圧といかにもウッディな感触も魅力となっています。

製作から70年を経た楽器としては非常に良好な状態を維持しています。割れはなく、表面板全体にキズ(特に指板両脇からサウンドホール周りにかけては弾き傷がやや多め)がありますがさほどに深いものではなく、適切な弾き込みによる経年の自然な使用感の範囲にとどまっています。横裏板(これも実にバルベロ好みの濃茶で柾目の中南米ローズウッド)は衣服の摩擦による細かな擦れあとや若干の塗装の白化のみとなっており、やはり経年考慮するときれいな状態といえます。ネック裏はおそらく過去に再塗装が施されており、現状はキズはほとんどなく良好です。ネックは真っすぐを維持しており、フレットは全体にやや摩耗していますが(特に1~4フレット)、演奏性には影響ありません。ネック形状は普通の厚みのDシェイプでフラットな加工がされています。糸巻は過去にGotoh製に交換されており、現状で機能的に良好です。ラベルには割り印でアルカンヘル名義のブランドスタンプが押印されており、同様のものが他にもネック脚部分と表面板内側サウンドホール脇にも押印されています。またネック脚部分には「19」の番号も押印されていますがこれについては不明(アルカンヘルによると本器はバルベロがストックしていた材をそのまま使用して作られているが、番号の意味は定かではないとのこと)。


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区分 国産クラシック オールド
製作家/商品名 尾野 薫 Kaoru Ono
モデル/品番 Model/No. ブーシェモデル No.301
005_001_onoK_02_218_301
弦長 Scale Length 650mm
国 Country 日本 Japan
製作年 Year 2018年
表板 Top 松 Solid Spruce
横裏板 Back & Sides インディアンローズウッド Solid Indian Rosewood
付属品 Option ハードケース
備考 Notes
ネック:セドロ
指 板:エボニー
塗 装:表板 セラック
   :横裏板 セラック
糸 巻:スローン
弦 高:1弦 2.8mm / 6弦 4.1mm

〔製作家情報〕
1953年生まれ。中学生の頃よりギターを弾き始め、大学の木材工芸科在学中に、その知識を活かして趣味としてギター製作を開始。1980年、グラナダの巨匠アントニオ・マリンの弟子であるアルベルト・ネジメ・オーノ(禰寝孝次郎)氏に師事し、スペイン伝統の製作工法を学び、本格的にギター製作の道へ進む。

その後も伝統的な製作技法を追究し続け、2001年にはスペインにて名工ホセ・ルイス・ロマニリョス主宰の製作講習会に参加。また、アントニオ・マリン本人からも製作技術について直接指導を受け、さらに来日したアルカンヘル・フェルナンデスからも、製作に関する貴重な助言と激励を受けている。

尾野氏の最大の特徴は、独自の科学的考察に基づく、極めて理論的なスペイン伝統工法の解析と、それを自身の楽器製作へと昇華させている点にある。各楽器個体の最良の鳴りを追求した結果として生み出される、透徹した音響バランスと、雑味のない透明で美しい響きは特筆に値する。

また音響面に留まらず、細部にまで行き届いた精緻な造作と、繊細な塗装による外観の気品も比類なく、トータルクオリティにおいて、現在の国内最高峰と言える完成度を誇る楽器を製作している。年間製作本数は約10本。2020年には、フランスの出版社 Camino Verde 刊 Orfeo Magazine No.15 にて、インタビューおよび楽器が紹介された。

2024年7月に逝去されたが、その作品は現在もなお変わらぬ高い評価を受け続けており、多くの演奏家や愛好家に支持されている。

〔特徴〕
形式としてだけのレプリカではなく、オリジナルであるロベール・ブーシェ(1898~1986)の音響美学と真摯に対峙し、尾野氏自身のセンスによって絶妙な現代性をまとわせた見事なブーシェモデルです。個人的な親交のあった故・稲垣稔氏が所有していたブーシェをモデルとし、この稀代の名器を弾きこなしてきたギタリストとの対話を通じて深められた理解が、本作の完成度の高さに大きく寄与していることは間違いないでしょう。

まろやかで重厚な響きには誰もがブーシェ的な特徴を感じ取ることができます(尾野氏自身はこれを“パイプオルガン的な響き”と表現しています)。その一方で、各音はあくまでも凛と引き締まり、オリジナルでももしかすると聴くことのできないほどの透徹した、ある種の厳しさをまとっている点に、尾野氏ならではの個性が表れていると言えます。

内部構造は、左右対称の5本の扇状力木に加え、駒下の位置に配されたトランスバースバーという、ブーシェ特有の設計を踏襲。レゾナンスもオリジナル同様、Aのやや上に設定されています。糸巻きにはスローン製を装着しています。

演奏に伴う弾き傷は若干見受けられるものの、全体的なコンディションは良好です。ネックの反りもなく、弦高も弾きやすく調整されています。

音のバランス、伸びともに申し分なく、さらに中古市場には滅多に出回らない希少なブーシェモデルの入荷は、大変貴重な機会と言えるでしょう。とりわけ本作のように製作意図と完成度が高いレベルで一致した個体は、市場においても例が少なく、単なるコピーを超えた「一つの作品」として評価されるべき一本です。ブーシェの系譜に深く根ざしながらも、尾野氏の解釈と美意識が随所に息づく本器は、演奏者に新たな表現の可能性を提示してくれることでしょう。

コレクションとしてはもちろん、実用的なコンサートギターとしても十分に応えてくれる、長く弾き込みたくなる魅力に満ちた逸品です。


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